ルールは
・2018年放送のTVアニメ。
・1作品1話まで。
・順位は付けない。
1,『ヤマノススメサードシーズン』 第10話 「すれちがう季節」
脚本:ふでやすかずゆき 絵コンテ・演出:ちな 作画監督:今岡律之
キャラクターの心とキャラクターがいる世界の物、光、色が絶妙にリンクした一話。遠くを見やる目線、ディスプレイを見つめる目線、隣りにいる人を見つめる目線…心の距離感を表すキャラクターの目線の先と、目線を向けるまでの感情の移り変わりを示す芝居作画。ときにはその世界にあるスマホや手すりという物を使って、キャラクターの性格を味付けしていく。そしてそのキャラクター作画をより印象づけるような陰影と色味。画面内にあるものが明確に繋がり合って、画面外の世界すらも想像させる。
すれ違いを描いた切ないエピソードだけども、「今そこにいる」キャラクターの心に寄り添える映像表現が心地よくもある…一つの色では片付けられない感情が、画面から溢れ出ていた。

2,『SSSS.GRIDMAN』 第9話 「夢・想」
脚本:長谷川圭一 絵コンテ:五十嵐海 演出:五十嵐海、金子祥之 作画監督:五十嵐海、坂本勝
これから映し出される夢想の世界へとグイッと引き込むような警報機の赤色と強烈なレイアウト。ファーストカットから「この回はいつもと違う」という期待感が湧き上がり、目が離せなくなる。
信号と踏切をこのエピソードの軸に据えて、物語の展開に合わせて画面の情報量が増えるような演出が印象的だった。夢想の中で過ごす裕太たちを見守り、時に警告しているようにみえる街の警報機や遮断器。そしてグリッドマンからの呼びかけを映すビルの窓ガラスや街頭のモニター。

「目を覚ませ 僕らの世界が何者かに侵略されてるぞ」。キャラクターだけでなく画面内に収められた様々な物たちからそんな声が聞こえてくるかのような、独創的な世界。五十嵐さんの世界とも言えるかもしれない。
3,『HUGっと!プリキュア』 第16話 「みんなのカリスマ!?ほまれ師匠はつらいよ」
脚本:村山功 絵コンテ:渡邊巧大 演出:川崎弘二 作画監督:渡邊巧大
昨年『タイガーマスクW』38話で見せた渡邊さんのカッティングのアイデアと、活き活きとしたキャラクターの感情表現がパワーアップして帰ってきたようなエピソード。
参加している原画マンや演出処理の川崎さんの力でもあるんだろうけど、ウエストショットくらいの位置からのキャラ芝居はアイデアをたくさん盛り込んで、その時々の感情を存分に表現する。引いた画面では上手くディテールを省略して、必要な芝居だけを適切に入れていく。ルールーに対しては影の動きを使って、感情のないアンドロイドであるルールーというキャラクターに奥行きを作る。シチュエーションやキャラクターが違えば芝居や心情表現の方法はもちろん変わるけど、一つ一つの状況を的確に捉えた上でアイデアを足していっている感じが素晴らしい。

誰かが誰かを応援する、という構図はこの作品通して存在するけど、この16話では、ほまれに対するはなとさあや、じゅんなとあきに対するほまれのような、見守る立場のキャラクターの感情をカット割りやレイアウトで工夫して映しているのがとても良い。そしてプリキュアに対するルールーのような、少し後ろから見つめる立場のキャラクターが抱える苦悩を丁寧に演出していたのも印象的だった。いずれもキャラクター達が考えた、今できる精一杯の応援を優しく映すような、丁寧な演出だった。

4,『刻刻』 第4話「㐧肆刻」
脚本:猪爪慎一 絵コンテ・演出:湯川敦之 作画監督:Cindy H. Yamauchi
「ヤマノススメのちな回」、「グリッドマンの五十嵐回」、「ハグプリの渡邊回」と、今年は作家性の強い若手演出家さんのお仕事が目立ったけど、この「刻刻の湯川回」も忘れちゃいけない。このエピソードは止界という異様な空間をより際立たせるような、キレのある演出が良かった。
止界は時が止まった止者達の空間。樹里達はその世界にいながらも時が止まっていない、いわば止界の異物達だ。その異物達を捉える画面はどこかに違和感があり、「画面の主役は止まった物達だ」と訴えるような画面が支配する。止まった飛行機と飛行機雲、鍵のかけられた自転車…止界だからこそ別の意味を持っていたり、その意味を加速させるモチーフが大量にある。その活用とレイアウトのアイデアがすごく面白い。

被写界深度の浅い、魚眼気味のレンズ効果とアップショットのインパクトも上手く活用してる。

このカメラとの異様な距離感も「異物」を表現するのに一役買っているように感じた。動的なカットを最小限にしてカメラワークすらも止界に溶け込むような画面。作家性の強い演出ではあるものの『刻刻』に合致した演出で、没入感のある一話だった。
湯川敦之さんのお仕事は今後も注目していきたい。
5,『宇宙よりも遠い場所』 第2話 「歌舞伎町フリーマントル」
脚本:花田十輝 絵コンテ:いしづかあつこ 演出:北川朋哉 作画監督:川口裕子
何かが変わろうとしている。けれどその変化は未だ直接的に見えるものではなく、成果物も無い。一見、中途半端な変化の兆しだけれど、変化を信じて歌舞伎町の街を縦横無尽に駆けまわる「女子高生の無敵感」が、その変化の先にある南極への到達は不可能ではないと、予感させる。
Bパート終盤、ネオン街をバックに全力疾走するキマリのカットが良い。歌舞伎町の街にビビりながらやってたキマリ達が、気づけばギラギラと光る都会の下で暴れまわってる。まさに無敵感。

「私の青春、動いてる気がする!」。キマリが叫ぶ、このぼんやりとした変化があまりにも爽快。
そして、歌舞伎町とフリーマントル。接点のないように見える2つの街は、このエピソードの中で南極へ行くために行かねばならない街として共通項を生み出す。キマリ達にとってはまったく関係のない街であったはずなのに、思いもよらぬ形でその街に意味が生まれ、世界が拡がっていく。その世界の拡がりに触れながらも臆せず突っ走っていくキマリ達の様子が「歌舞伎町フリーマントル」というストレートなサブタイトルに紐付けられているように感じて、とても印象的なエピソードだった。
6,『若おかみは小学生!』 第20話 「ホントの気持ちと若おかみ!」
脚本:平見瞠 絵コンテ・演出:澤井幸次 作画監督:阿部純子
「ホントの気持ち」の力強い輝きと夕景の輝きを、おっこの感情に積み重ねたような一話。特に“夕日が橋”のシーンが良い。
「ウリケンが居なくなると寂しい」とつい本心をこぼしてしまうおっこ。この言葉を聞いてウリケンが驚くのはわかるけど、おっこも同じような表情をしているのがおかしくもあり、おっこがつい口走ってしまった本心であると証明するような表情でもある。一瞬時が止まったような密度の濃い空間は澤井さんの演出らしいなとも思った。

好きになる気持ち、それに対して素直になる気持ちの大切さをグローリーの経験談からおっこは理解し、その後ウリケンへ「ホントの気持ち」を伝える、という流れが夕景とともに画面内で上手に整理されていて、このエピソードにある夕景の空間密度をさらなる濃さへ昇華させていた。

7,『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 第5話 「人を結ぶ手紙を書くのか?」
脚本:鈴木貴昭 絵コンテ:山田尚子 演出:藤田春香、澤真平 作画監督:植野千世子
このエピソードの舞台となる王宮の空気感と、ヴァイオレットの無垢なる感情である「気持ちを知る」というテーマを、山田さんのコンテワークを通して見るとここまで洗練された世界が切り取られるのかと、ため息が出た。
昨年の10選でも触れた、地べたに座るという関係性とローポジションのアングル。この『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』でも上手に使われていた。

王宮の庭園に流れる穏やかな空気の中で揺れる2つの感情を、王女と自動手記人形という立場を越えて、二人の少女として描き出す。このエピソードだからこそ、山田さんのコンテワークだからこそ、映し出せる世界だと思う。
『リズと青い鳥』で山田さんが映し出した静謐な情景とその時にしか存在し得ない感情の揺らぎは、この『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』5話でも慎重に描き出されていた。
8,『スロウスタート』 第7話 「ぐるぐるのてくび」
脚本:井上美緒 絵コンテ:舛成孝二 演出:篠原正寛 作画監督:河合拓也
いつもは誰よりも大人で落ち着いている栄依子が清瀬と話すときは少し様子が違う。生徒と教師という関係だから、というのももちろんあるだろうけど、栄依子の言葉の端や会話のテンポにアクセントを置いて、清瀬と並び立とうとしているような栄依子を作り出す。また、会話の中で静かに移り変わるキャラクター同士の物理的・心情的な距離感、そして手や足の仕草によって、いつもと違う栄依子の気持ちを巧みに表現していた。
酔いから醒めた清瀬に対し、栄依子が清瀬宅にて一晩明かした経緯を話すくだりでは、栄依子の仕草への注力が良かった。

髪をいじる、あごに手をあてる…甘えを感じさせる仕草と優位性を見せようとする仕草で自身を演出しているように感じる。清瀬との駆け引きみたいなものを楽しんでいる反面、自分自身を演出して大人っぽくない“照れ”の表情を隠そうとしているように見えた。
見て欲しい部分と隠しておきたい部分という二面性を象徴するのは、酔った清瀬によって栄依子の手首に巻かれたタオル。本当は自分で解けるはずなのに、このシチュエーションを清瀬が見てどんな反応をするだろうかと、清瀬の目覚めを待っている。「ぐるぐるのてくび」には栄依子の甘えや好奇心の裏に、等身大の栄依子が秘めた恥ずかしさや照れがあったのかもしれない。

9,『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』 第12話 「レヴュースタァライト」
脚本:樋口達人 絵コンテ・演出:古川知宏、小出卓史 作画監督:松尾亜希子、小里明花、谷紫織、清水海都、小池裕樹、錦見楽、杉山有沙、大下久馬、小栗寛子、櫂木沙織、角谷知美
個人的にこの作品については4話で描かれた、東京タワーという華恋とひかりのシンボル的アイテムと、縦へ向かうベクトル・横へ向かうベクトルみたいなものに注目していたので、この12話の「約束タワーブリッジ」はすごく衝撃的だったし、自分が見たいと思っていたものの更に上を突き刺す「舞台装置」に感動した。
自ら罪を背負い続けていくと決めたひかりによって舞台から降ろされる華恋。これによって舞台は終わり…ではなく、その結末の先を信じて再び華恋が立ち上がる。無であった場所から「舞台装置」により上昇するが、二人の間にはまだ決定的な断絶がある。横への繋がりを失い、共に上昇することができない隔絶。

これを「約束タワーブリッジ」が貫く。縦への上昇のシンボルでもあった存在の東京タワーは「再生産」され、「あの日のきらめき」という二人に共通する輝きに再び明りを灯すために、縦へのベクトルに加えて横へと繋がる力を手に入れた。
この二人の心の分断から再合流に至るまでの「約束タワー」と縦・横へのベクトルのアイデアが、ズドンと突き刺さった最終話だった。

10,『メガロボクス』 第3話 「GEAR IS DEAD」
脚本:真辺克彦 絵コンテ・演出:和田高明 作画監督:和田高明、原田大基
メガロボクス最下位のジョー、八百長の渦にハマる贋作、ストレートチルドレンのサチオ。それぞれが苦境に立たされている中で、心の内に秘めているものは違うが、目指すべきところはメガロニア一つ。バラバラのままだったら不可能であったはずの目的地への到達だが、再び走り出す動力源となる希望をジョーの背中に見出す。この男臭さが最高にカッコいい。

本編のラストカットを締める「NOT DEAD YET...」の直後、ED曲のイントロとともに映し出される、ネオン管風のタイトルロゴとサブタイトル。ギアは壊れて使い物にならなくなったが、まだ生身の体が残ってる。一度失いかけた信念の火種がそれぞれの心に残っているのであれば、三人はまだ死んじゃいない。

以上。
今年も良い作品・話数がいっぱいあって難しかったです。『青春ブタ野郎』とか『やがて君になる』とか『ゾンビランドサガ』とか『アイカツフレンズ』は話数が絞り切れなかったし、『Free! DF』4話とか、『ゆるキャン』1話とか、『3月のライオン』40話とか、『ブラッククローバー』63話とか…挙げればキリがない…斉藤良成さんキャラデザの『叛逆性ミリオンアーサー』1話とかも入れたかったですね…。
今年は自分の考えをもう少し整理して残しておきたいと考えて、例年の倍以上、ブログに感想を書きました。ツイッターで記事の反応をいただけたり、想像以上に得るものが多くて、やってよかったと思います。
ブログを御覧いただいた方、ツイッターで記事の感想をつぶやいていただいた方、ブログ更新ツイートを拡散していただいた方、本当にありがとうございます。
拙い文章ですが来年もぼちぼち更新したいと思いますので、ご覧いただけると嬉しいです。
それでは良いお年を。
来年も素敵なアニメに出会えますように。
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