話数単位で選ぶ2019年TVアニメ10選について。

 今年の総括。

 ルールは
 ・2019年放送のTVアニメ。
 ・1作品1話まで。
 ・順位は付けない。


1,『モブサイコⅡ』 第7話 「追い込み 〜正体〜」
脚本・絵コンテ:立川譲 演出:飛田剛 作画監督:亀田祥倫

 人と関わる中で経験を積んでいったモブが「なにものか」になろうとしている。霊験新隆はそんなモブをないがしろにしてしまった結果、霊能番組で「なにものにもなれていない」自分を露呈する…『モブサイコⅡ』には印象的な話数がいくつもあるが、個人的には痛々しさと優しさが同居するこの一話が忘れられない。

 会見場のシーンの構成が良い。不特定多数に向けて発信する場でありながら、新隆の中にいるのは「なにものにもなれなかった」自分と「なにものかになろうとしている」モブの2人しかいない。このギャップがよりパーソナルな部分に潜り込むことの一助になっていた。新隆の「成長したな、おまえ」というセリフもディスプレイに映った霊幻新隆の文字から潜り込むようなカットになっていて、パブリックなシチュエーションながらごくごく狭い「誰か」へ向けた言葉として際立つ演出になっていた。
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 会見終わりのラストシーンもすごく良かった。夕日を背にして水の流れに逆らいながら歩く新隆の孤独感、そしてモブを見つけて躊躇いつつも問いかける言葉「お前、知ってる?俺の正体」「ネットとか雑誌とか見てねえの」。新隆の怯えを孕んだような絶妙なイントネーションがすごく良くて、新隆の中にある「なにものにもなれなかった」側の者としての気持ちが作った壁を感じさせる。
 しかし、その壁すらをも超えて新隆に入ってくるモブの言葉「イイヤツだ」。超能力を持っただけの「なにものでもなかった」ころのモブへ向けた「イイヤツになれ」という新隆自身の言葉が、モブの言葉で返ってくる。モブと出会ってから今までの時間が新隆の背中を押すようなカメラの回り込みと、挿入歌「グレイ」の歌詞も相まって、決して「なにものでもなかった」わけではないと画面が訴えてくるような演出。凄くグッと来た。
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 ラストカットは新隆とモブの影が二つ。「依存」でも「孤立」でもない距離感が、二人を確実に「なにものか」にしていく。
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2,『スター☆トゥインクルプリキュア』 第40話 「バレちゃった!?2年3組の宇宙人☆」
脚本:村山功  絵コンテ・演出:畑野森生 作画監督:高橋晃

 『スター☆トゥインクルプリキュア』では「自分らしく」というのがテーマの一つだ。異星人のララは地球の学校で「2年3組のララ」という新たな自分とその居場所を手に入れたが、異星人たるゆえに学校での「自分らしさ」が揺らぐ。このエピソードではその揺らぎを学校という舞台装置とライティングに拘って演出されていた。
 校舎内のシーンではBGオンリーのカットやBGが強調されるカットが頻出する。画面の構成は他話数と比較してもシンプルになるが、その結果、単にララとしての物語ではなく「2年3組のララ」の物語なのだという意味合いが強くなる。特に陰影の作り方や陽光の入り方が、ララの孤独や「孤独の中にある光」としての演出となり、寂寥感と温かさを併せ持つような空間を作っていた。
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 親交を深めてきたひかるとララ、二人の関係性にスポットが当たっているのも、このエピソードの好きな部分。二人のシーンは柔らかい光の演出と二人を邪魔しないようにこっそりと映すかのような画面で構成されていて、優しさに包まれているかのような暖かさがあった。
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 学校内ではないが、アバンの身支度をするララの芝居もよかった。朝の身支度の仕草に、触角の生えたララだからこそする仕草が加わっている。触覚を直す意味があるかはわからないが、そういうところまで気にしてしまっている感じが思春期の女の子らしさの表現でもあり、ララらしい仕草でもある気がして面白い。
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3,『ツルネ』 第13話 「かけがえのない」
脚本:横手美智子  絵コンテ:山村卓也 演出:山村卓也、太田稔
作画監督:門脇未来、池田和美、丸子達就、角田有希

 風舞高校弓道部の一体感をカット割りと目線で彩った最終話。
 団体戦といえど一人一人が的を捉えなければならない戦いだが、射法の動きや音を繋げて味方の動きに呼応する、団体戦ながらの演出が上手だった。合間に挟む桐先高校側の強さや動揺の描写もカット割りのテンポ感を意識したまま映していて、すごく濃密。特に悠と湊に関わるカット割は微妙な表情の違いを見せて、風舞高校として戦う湊と、湊を意識する悠を丁寧に描写していた。
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 目線の力強さの表現の巧さは山村さんの力の見せ所か。
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 目線を用いた湊と悠の関係性の演出や、皆が同じ方向を見つめることの心強さ、力強さを感じさせるようなレイアウトがあった。見つめる先に込めた熱量が画面越しに伝わってくるような凛々しさに圧倒される。
 最終回ということもあり、風舞高校としても、山村さんの演出としても「見せ場」として相応しい舞台で躍動していた。


4,『風が強く吹いている』 第23話 「それは風の中に」
脚本:喜安浩平  絵コンテ・演出:野村和也
作画監督:千葉崇洋、名倉智史、折井一雅、高橋英樹、鈴木明日香、森田千誉、稲吉朝子、下妻日紗子

 このエピソードではハイジの右足の軋む音が印象的だった。単純な痛みとも違う、ハイジの今までの歩みと走り続けることの覚悟が詰まった鈍い軋む音が、箱根駅伝という夢の舞台まで這い上がってきた代償のようでもあり、努力の音でもある。
 そしてその軋みは、ハイジと気持ちを一つにした寛政大学陸上部のそれぞれの表情と、ハイジ父が隠しているハイジへの想いを絶妙にすくい取ることで多角的な意味を持ち、輝く。ハイジを前に進ませる仲間たちの表情はこれでもかと画面に収めている反面、疎遠になってしまった父との関係性は、ハイジの背中越しであったり、表情を映さずに演出していた。このレンズ越しに作るそれぞれの感情との距離感もとても良い。
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 「あの辛かった思い出も 弱音吐いた夜でさえも この時を迎える為のものだったんだ」
 走りきったハイジの苦しそうでもあり、嬉しそうでもある表情がED曲と絶妙にマッチしていて、グッときた。軋みに苦しみぬいた先に見つけた輝きの景色と、柔らかな空気感のエピローグがハイジを次の舞台へ後押しするようで、すごく良かった。
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5,『ちはやふる3』 第3首 「よしののさとに」
脚本:柿原優子  絵コンテ:高橋亨 演出:中西伸彰
作画監督:藤田真弓、菅原美智代、永田文宏、山﨑輝彦、波良礼

 綾瀬千早のクイーンになるという目標は変わらずとも、その過程にあるドラマを劇的に加速させるライバルとの「邂逅」の瞬間を切り取る演出に痺れたエピソード。

 Aパート冒頭の真島太一と綿谷新の「邂逅」は、過去からの因縁を静かに浮き上がらせるかのような境界線の演出が良い。
 会話自体は雑談に近い内容だが、心のうちに隠した「お前にだけは負けたくない」という気持ちをひっそりと映すようなカメラとキャラの距離感。
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 一方で、千早と元クイーン・猪熊遥の「邂逅」はドラマティックだった。詠み手の声と二枚の「ちはや」がぶつかる瞬間が圧縮され、そして他の選手が畳を叩く音で開放される。スケール感ある俯瞰ショットの二人だけが札を追っている姿は、「ちはや」に愛された二人の邂逅のインパクトとして十分なものだった。このカットの直前にある、桜沢翠が会場にいる選手たちを分析するモノローグも相まって、「かるたに挑む者たちの中から抜き出た二人」というイメージも強く残る。偶然のちはや札の衝突が、脚本や演出によって必然の出来事のように映し出す。
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 ラストシーンの「邂逅」もまた、邂逅の一瞬を圧縮させる演出だ。この邂逅を単なる「急成長の高校生」と「元・クイーン」の構図とすることなく、「千早の左手」と「遥の子供」を映してキャラクターのここまでの過程をも意識させることで、密度の濃い一瞬を作り出していると感じた。続くEDファーストカットの「ちは札」のアップショットも計算に入れているかのようで、「ちは札」を得意とする二人の邂逅を描いた一話として、印象的な一瞬の切り取りに一貫性と演出力を感じたエピソードだった。
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6,『女子高生の無駄づかい』 第7話 「やまい」
脚本:坂井史世  絵コンテ:石黒達也 演出:東亮佑 作画監督:清水拓磨、セブンストーン・スタジオ

 『女子高生の無駄づかい』は全体を通してキャラクターの魅力を引き出すのが上手な作品だったが、このエピソードは特にそう感じた。
 やまいは中二病な面と普通の女の子な面があって、その二面性の切り出し方であったり、ギャップの楽しさに溢れたキャラクター。

 体中に付けている包帯をワセダに注意されるシーンのラスト、レンズを通して歪んだやまいを映すカットは、やまいの二面性にも繋がっていたりして、面白いカットだと感じた。
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 UFOキャッチャーでダイオウグソクムシ娘を捕るくだりも、オチの部分はガラッとやまいの印象を変えて鮮やかな画面に。ちょっとグロテスクなダイオウグソクムシを抱きながら…というところがやまいのギャップの可愛さにも繋がってて、キャラクターの魅力がよく出てる。
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 シーン終わり、カット終わりギリギリまでキャラが喋って場面転換という演出も印象的だった一話。淡白というよりもテンポ良くダイアローグに入っていく感覚。画面においてはロングショットを上手く挟んで、キャラとカメラが独特な距離感を保つ。こうしたキャラとフィルムの独自の距離感が『女子高生の無駄づかい』の雰囲気を作っているのだと思った。
 作品全体の雰囲気とその楽しさ、そしてやまいというキャラクターの映し方の巧みさ…その二つが上手に兼ね合わさっていて、大好きなエピソード。


7,『賭ケグルイ××』 第9話 「傍らの女」
脚本:瀬古浩司  絵コンテ:川畑喬 演出:後藤康徳、Kim Sang-yeob
作画監督:Jang Gil-Yong、Hwang Il-jin、Hong Yu-mi

 モチーフの連鎖と鮮やかな色彩が印象的だった一話。綺羅莉の青い瞳、青色の水、青色の月…「扉の塔」の周りに咲く百合の花や百花王学園の赤い制服へ反射するような、鮮やかでありながら毒々しい青色がモチーフに連鎖する。
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 まず、アバンファーストカット。奥の水草や石をボカして手前のライトを月のように浮かび上がらせ、ピン送りでアクアリウム内を見せる。このカットは「扉の塔」と共に現れる青い月への伏線のような演出でもあり、大胆な演出の張り巡らせ方が面白い。一方でアクアリウム越しに映る清華のカットでは、清華が綺羅莉の手のひらの上にいる感覚を堅実に残す。このアバンの大胆さとバランス感覚を兼ね備えた演出が、川畑さんの演出の特徴ともいえる。
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 そしてこの一話を締めるラストカットもまた面白い。壁側の扉に設置された問題を解いて、開いたその先を「味わい尽くす」夢子。開けばその先にはなにもない訳だが、色んな意味で「なにもない」と衝突した夢子を切り取る絶妙なカットだった。
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 ここぞというところで、1カットの中でも印象や意味を大胆に変えてくる演出は川畑さん演出の醍醐味。今回は「ここぞ」をアバンとラストカットに照準を合わせて強烈なインパクトを放つとともに、一話通して青色の演出が見事だった。


8,『バビロン』 第2話 「標的」
脚本:坂本美南香  絵コンテ・演出:富井ななせ 作画監督:久保光寿

 曲世愛と直面する正崎善が感じ取った曲世の異常さや底知れなさを映像体験するかのようなエピソード。カメラとの距離感や画面分割、解像度やアスペクト比までもが、まるで曲世に支配され、曲世の中を覗かされているような異常な感覚が視聴後に残った。
 顔の部位にクローズアップするカットや、アスペクト比の異なるカットは曲世の底知れなさが際立つ。曲世が持つ様々な顔を少しずつ見せられていくような感覚が、画面からにじみでてくる。薄暗さを感じるブラウン管の画面のようなカットはホラー的な不気味さだけではなくて、狭く不鮮明な空間を作ることにも活かされていて、それすらも「底知れなさ」に繋がっているように感じた。
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 音の演出も素晴らしかった。取調室の人工的で無機質で、それでいて生活の中に溶け込んでいる空調の音。普段はぼんやりと聴き流す音が無音の空間ではやけに鼻につく。ただの若い一般女性という状況から走査線に浮き上がってきた曲瀬の存在を想起させられたが、取調室のシーンは曲瀬役の雪野五月さんの演技含め、意図的に「鼻につく」アクセントのようなものを視覚からも聴覚からも感じ取れるようにしているのが面白い。

 翻弄されているのは決して正崎だけではなく、視聴者をもその渦に巻き込むかのような演出に魅了された。このエピソードのコンテ演出は富井ななせさん。今後の仕事にも注目したい。


9,『ハイスコアガールⅡ』 第18話 「ROUND18」
脚本:イシノアツオ  絵コンテ・演出:山川吉樹

 このエピソードは小春の情感に寄った表現が素晴らしかった。
 まず印象的だったのは雨を使った小春の情感描写。同じ方角を見つめ続けるハチ公へ浴びせられる雨、排水溝に溜まる雨水とそこを漂い続けるたばこの吸い殻。春雄へ向けた小春の強い想いであったり、春雄の心に入り込めない日高の気持ちであったり、雨と渋谷の街を巧みに用いて小春の情感を演出していた。
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 そしてレストランのシーン。手、表情、目線から溢れでてくるかのような小春の情感、そしてその表現が凄く良かった。水滴を弄ぶ指の動き、小春が自身の腕に手を滑らせるときにできる皺の動き、春雄への目線、扇情的な表情…簡単に言ってしまえば「春雄への誘惑」だが、その誘惑の先にある願いが望み薄であることは、小春もぼんやりと感じ取っているような気がする。それでも諦めきれない小春の気持ちを考えると、切なさを感じてしまう。
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 ラストシーンでは二人を閉じ込めていた雨が止み、朝が来る。そこへ現れる晶が小春の情感に溢れた一夜に終止符を打つ。物語がまた大きく動きだす兆しと、一つの物語が終わってしまった感覚が同居しているかのような複雑な感情を残すエピソードだった。


10,『アイカツオンパレード!』 第7話 「かがやく三つの太陽」
脚本:大知慶一郎  絵コンテ・演出:大川貴大 作画監督:高橋晃

 『アイカツオンパレード!』自体がアイカツシリーズの軌跡を描くような作品ではあるけども、このエピソードはアイカツシリーズの原点とも言えるキャラクターである星宮いちごを主題に据えていて、尚更その印象が強い。いちごがトップアイドルになって変わったものと、変わらず持ち続けているものの演出がすごく良かった。

 「変わらず」の部分としては、いちごのセリフにもあった「大好きなものでみんなを笑顔にする」であることは間違いないが、個人的には駆け出しのアイドルだったころから変わらないあおいと蘭との掛け合い、そして3人で笑い合う姿にグッときた。3つのスターライト学園のバッグが並ぶショットは、ソレイユとしての信頼関係が今もそこにあると示しているようで「変わらず」を上手に切り取ったショットだと感じた。
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 「変わった」を感じさせる部分は舞台袖のシーン。ステージ前のシーンでは舞台袖に漏れてくる光を背に立ついちごの姿がそのままトップアイドルのオーラのように映った。BGMに『アイドル活動!』のピアノバージョンが流れるというのもこのシーンにピッタリ。変わったことと変わらないことの両方を尊重しているかのような感覚を受けた。
 ステージ後のシーンでは、活き活きと動き回るスタッフとコミュニケーションを取るいちごと、それを見て感銘を受けるらきの姿がある。駆け出しのアイドルであるらきが、いちごがトップアイドルたる理由をいちごの舞台袖の姿から感じとるというシチュエーションが凄く良かった。
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 EDには『カレンダーガール』。アイカツシリーズ初期を代表するこの楽曲が、トップアイドルになったいちごたちの輝きと、駆け出しだったころからあるいちご達の輝き、その双方をさらに彩ってくれる。アニメ『アイカツ!』が始まってはや7年。なんてことない毎日を特別にしてくれる『アイカツ!』シリーズは、いくつもの変化を見せながら変わらず輝きに満ちている。



 以上。
 今年も選出に凄く悩んだけど、選出しなかった話数も含め、今年のアニメを見直す機会となったので良かった。『かぐや様は告らせたい』12話や『からかい上手の高木さん2』7・12話、『進撃の巨人 Season 3』59話、『ロード・エルメロイII世の事件簿』6話…挙げればキリが無くなってしまう…。
 今年もガンガンブログ更新しようと思ってたけど、下書きのまま溜めちゃった記事が多い。来年はそうならないように頑張りたい。

 そして「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」を毎年集計してくださっていた新米小僧さんが企画から離れられるとのこと(http://shinmai.seesaa.net/)。ネットの隅っこにあるこのブログをも参加サイトとして捕捉してくれた時の喜び、今でも忘れないです。集計結果を見るところまでが「10選」の楽しみでもあったので寂しくもありますが、これまで「10選」を盛り上げていただいた新米小僧さんに感謝。大変な作業だったと思います。お疲れさまでした。

 
 来年も素敵なアニメに出会えますように。

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